

戦争という悲劇の中でも…
歴史のさまざまな場面で、犬は人の大切な相棒でした。無線がなかった時代、そんな相棒は戦争という悲しい現実の中で、過酷な任務にも従事しました。 サタン ―― ヴェルダンに輝いた人と犬の絆 1916年6月、フランス北東部ヴェルダン。第一次世界大戦の象徴的戦場で、史上最悪の「肉挽き器」と呼ばれた攻防戦が続いていた。ドイツ軍の猛攻に対し、フランス軍はThiaumont要塞で孤立。通信線は砲弾で寸断され、伝令兵7名は全員死亡、伝令鳩も毒ガスで全滅。食料と弾薬は尽きかけ、部隊は絶望に沈んだ。司令部からの最後のメッセージ「神の名において、持ちこたえろ。明日、援軍を送る」を届けるため、選ばれたのは黒い雑種犬・ サタン だった。 サタンはフランス軍のメッセンジャー・ドッグ(伝令犬)で、敏捷性と忠誠心に優れていた。首にはタン色の革製筒、背には小型カゴ2つ(各々に伝令鳩1羽を収容)、頭には毒ガス対策マスクを装着。訓練官ドゥヴァルは以前に別の伝令犬「リップ」を失い、サタンに特別な絆を寄せていた。出撃前、ドゥヴァルはサタンの頭を撫で、静かに囁いた。「勇気を出せ、友よ。フラ

Takeshi Kimishima


文化の日と犬猫。
文化の日、犬猫と人の営みが織りなす文化の糸をたどってみると、そこには時代や地域を超えた、静かな共鳴の物語が広がっている。 日本の古い漁村では、野良猫が船の甲板を軽やかに駆け、ネズミから魚を守る姿が漁師たちの信頼を勝ち得ていた。彼らは猫を「船の守り神」と呼び、ささやかな餌を与えながら豊漁を祈った。江戸の町家では、招き猫が店先に据えられ、商人の願いを無言で受け止め、通りを行く人々の心に小さな希望を灯した。農村の夜には、犬の遠吠えが闇を払い、集落の安泰を告げ、子どもたちはその背に乗り、笑い声を響かせた。こうした日常の風景は、信仰や労働の裏側で、犬猫が人の暮らしに溶け込む瞬間だった。 世界に目を転じれば、古代エジプトの民は猫を穀物の守護者として尊び、神の化身と信じた。中世ヨーロッパでは、黒猫が迷信の渦に翻弄されながらも、納屋で静かに害獣を退治し続けた。イスラム世界では、預言者が愛した猫の逸話が、優しさの教えとして後世に残った。アメリカでは、犬の姿が「ホットドッグ」という名にユーモラスに重ねられ、食卓の笑いを生んだ。 そして現代。都市の朝、犬と飼い主が並ん

Takeshi Kimishima


秋ですね🍂そんな秋の夜は何かが起こりそう…
秋ですね🍂そんな秋の夜は何かが起こりそう… 秋の風は、いつもより少し冷たく、街灯の光を淡くにじませる。美咲はオフィスの残業を終え、いつものようにアパートの階段を上った。二十八歳、独身。デスクワークの疲れが肩に重くのしかかり、足取りは重い。今日も、冷えた夕飯をレンジで温め、ベッドに転がるだけの夜が待っている。秋は、そんな日常をより寂しく染め上げる。月夜の空は澄み渡り、葉ずれの音が、誰かのいない部屋を思い起こさせる。 玄関の前で、美咲はバッグから鍵を取り出した。指先が冷え、滑った。カチャリと、鍵がコンクリートの地面に落ちる。ため息をつき、屈んで拾おうと手を伸ばす。その視線の先に、影が揺れた。一匹の野良猫。灰色の毛並みに、緑色の瞳が月光を映して輝いている。痩せた体躯、耳の先が少し欠け、街の風をくぐり抜けた証のように見えた。 「えっ……」 美咲の心臓が、どきりと鳴る。猫はこちらをじっと見つめ、逃げるでもなく、威嚇するでもなく。ただ、静かに佇む。美咲は慌てて鍵を拾い、ドアを開けた。ガチャリと音が響き、暗い部屋の空気が漏れ出る。彼女は猫を無視しようとした。

Takeshi Kimishima



