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リンカーン大統領がみせた優しさ

  • 執筆者の写真: Takeshi Kimishima
    Takeshi Kimishima
  • 22 時間前
  • 読了時間: 2分
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雨の日の三匹の子犬


1863年の秋、ワシントンは朝から冷たい雨だった。エイブラハム・リンカーンはいつものように馬車でホワイトハウスへ向かっていた。


黒い外套の襟を立て、シルクハットを深くかぶり、窓の外をぼんやり眺めていると、御者の声がした。「大統領閣下、少しお止めしましょうか?」道端の泥の中に、小さな塊が三つ、ぴくりとも動かずに震えていた。濡れた毛がへばりつき、鼻先を地面に押しつけて、まるでこの世に希望を失ったように見える。リンカーンは答えなかった。ただ、馬車から降りた。


雨が容赦なく彼の顔を打つ。長身の男がゆっくりと膝をつき、泥に汚れるのも構わず、震える三匹の子犬を両手でそっと抱き上げた。小さな体は氷のように冷たかったが、心臓は懸命に鳴っていた。「……可哀想に」リンカーンは呟き、自分の外套の内側に三匹を包み込んだ。

温もりが伝わるにつれ、子犬たちは弱々しく尻尾を振り始めた。


御者が驚いた顔で言った。

「閣下、閣議の時間が……」「五分でいい。いや、十分だ」彼は近くの兵士宿舎や官舎を一軒一軒回った。

濡れた外套を開け、子犬たちを見せながら、静かに尋ねる。「この子たちの飼い主をご存知ありませんか?」誰も首を横に振った。


最後に老いた門番が言った。「閣下、あの子たちは昨日からあそこで泣いてました。きっと捨てられたんでしょう」リンカーンは黙って頷いた。


そして馬車に戻ると、子犬たちを膝の上に載せたまま、こう命じた。「ホワイトハウスへ急げ」執務室に戻ると、彼は秘書のジョン・ヘイを呼んだ。「ジョン、この子たちに温かいミルクと毛布を。

そして、誰か責任を持って世話をしてくれる者をさがしてくれ」ヘイが驚いて尋ねた。「閣下、これは……?」リンカーンは濡れた子犬の一匹をそっと撫でながら、静かに微笑んだ。


「放っておけなかったんだ。こんな小さな命が震えているのを見たら、どうして放っておけるだろう。僕にはできない」


その日から、三匹の子犬はホワイトハウスの庭で元気に走り回るようになった。

リンカーンは忙しい合間を縫っては、彼らに会いに来た。


そして誰かが聞いたという。「閣下、あの子たちはなんて名前なんですか?」リンカーンは少し照れたように笑って答えたそうだ。「名前? そうだな……『ホープ(希望)』と『マーシー(慈悲)』と、そして……『フレンド(友達)』でいい」


雨の日の小さな出会いは、戦争で傷ついた国に、ほんの少しだけ温もりを残した。

 
 
 

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