ネアンデルタール絶滅とホモ・サピエンス繁栄の仮説

約4万年前、氷河期の厳しいヨーロッパの大地で、二つの人類が運命の交差点を迎えていた。一方は、力強く頑健なネアンデルタール人。もう一方は、アフリカから新たに渡来したホモ・サピエンス。両者は同じ大地を分け合い、限られた獲物と資源を巡って静かな競争を繰り広げていた。しかし、この競争の勝敗を決めたのは、意外な「第三の存在」——犬だった。

ネアンデルタール人は、孤独な狩人だった。彼らは小規模のグループで、鋭い槍を手に中型から大型の草食動物を追っていた。オオカミの遠吠えを聞き、野生のイヌ科動物を時折狩りの獲物として倒すことはあっても、それを味方にする発想はなかった。遺跡に残る骨の分析から、彼らの生活は厳しく、効率の悪い狩猟に縛られていた。食料の確保は常に不安定で、気候の変動がもたらす飢饉に耐えかね、徐々に集団は縮小していった。犬のような忠実なパートナーがいない彼らは、広大な森や平原を覆う影に飲み込まれ、静かに歴史の闇へ消えていった。

一方、ホモ・サピエンスは、革新的な「絆」を武器にしていた。約4万年前頃、彼らは野生のオオカミから、徐々に家畜化の道を歩み始めた。最初は単なる共生——傷ついた子オオカミを世話し、狩りの手伝いをさせる。やがて、これが犬という究極のパートナーへと進化する。犬の鋭い嗅覚と群れの協調性は、狩猟を革命的に変えた。マンモスやトナカイの大群を効率的に追跡し、獲物を分け合うことで食料は安定し、家族の絆は強まった。犬の存在は、単なる道具以上のものだった。それは、夜の番犬として集団を守り、子どもの遊び相手として心を癒し、移動の斥候として新たな土地を開拓した。資源の優位性は人口の爆発的な増加を呼び、ホモ・サピエンスはヨーロッパを席巻し、やがて世界中に広がっていった。

この仮説——古生物学者パット・シップマンが2015年に提唱した「犬がネアンデルタール人を絶滅させた」というもの——は、犬の家畜化が両者の運命を分けた鍵だと語る。ネアンデルタール人の遺跡に犬の痕跡はなく、ホモ・サピエンスのそれは狩猟の証として溢れている。犬はただの動物ではなく、人類の「共進化のパートナー」として、繁栄の火を灯したのだ。気候変動や直接の衝突も要因ではあるが、この「パートナーシップ」が、現代人の勝利を象徴する——そんなロマンチックで、科学的な物語だ。

もちろん、これは一つの仮説に過ぎず、DNA解析や新遺跡の発掘でさらに検証されるべきもの。犬好きの私たちからすれば、歴史の影で忠実に寄り添う彼らの役割は、感慨深いものではないでしょうか？