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戦争という悲劇の中でも…

  • 執筆者の写真: Takeshi Kimishima
    Takeshi Kimishima
  • 12 分前
  • 読了時間: 3分
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歴史のさまざまな場面で、犬は人の大切な相棒でした。無線がなかった時代、そんな相棒は戦争という悲しい現実の中で、過酷な任務にも従事しました。


サタン ―― ヴェルダンに輝いた人と犬の絆

1916年6月、フランス北東部ヴェルダン。第一次世界大戦の象徴的戦場で、史上最悪の「肉挽き器」と呼ばれた攻防戦が続いていた。ドイツ軍の猛攻に対し、フランス軍はThiaumont要塞で孤立。通信線は砲弾で寸断され、伝令兵7名は全員死亡、伝令鳩も毒ガスで全滅。食料と弾薬は尽きかけ、部隊は絶望に沈んだ。司令部からの最後のメッセージ「神の名において、持ちこたえろ。明日、援軍を送る」を届けるため、選ばれたのは黒い雑種犬・サタンだった。

サタンはフランス軍のメッセンジャー・ドッグ(伝令犬)で、敏捷性と忠誠心に優れていた。首にはタン色の革製筒、背には小型カゴ2つ(各々に伝令鳩1羽を収容)、頭には毒ガス対策マスクを装着。訓練官ドゥヴァルは以前に別の伝令犬「リップ」を失い、サタンに特別な絆を寄せていた。出撃前、ドゥヴァルはサタンの頭を撫で、静かに囁いた。「勇気を出せ、友よ。フランスのために。」サタンは尻尾を一度振り、塹壕から飛び出した。


無人の地帯(No Man’s Land)は地獄だった。距離約1.5マイル(2.4km)の地形は、有刺鉄線、クレーター、泥濘、煙と毒ガスに覆われていた。サタンは訓練されたジグザグ走法で初期区間を進んだが、開けた平野でドイツ軍の狙撃手が気づき、数百発の弾丸が集中した。一発目が肩をかすめ、二発目が後ろ脚を貫通。サタンは転倒し、血まみれで這い始めた。塹壕の兵士たちは煙の向こうに「飛ぶ怪物」のような影を見た――ガス・マスクとカゴが翼のように映った。


ドゥヴァルはサタンを正しく認識し、塹壕から叫んだ。「サタン!」その瞬間、狙撃手の銃弾がドゥヴァルの胸を貫き、即死。しかし声は届き、サタンは再び立ち上がった。血の滴る脚を引きずり、最後の10メートルを這ってフランス塹壕に到達。兵士たちの腕に崩れ落ちた。


筒から取り出されたメッセージには一行。「神の名において、持ちこたえろ。明日、援軍を送る。」背中のカゴから2羽の鳩が解放され、Thiaumontの位置とドイツ砲台座標を司令部へ伝達。1時間後、フランス遠距離砲がドイツ砲台を破壊し、敵の砲火が沈黙。援軍が到着し、Thiaumontは守られた。数千の命が救われ、ヴェルダン防衛線は維持された。


サタンの末路は諸説ある。任務直後に傷がもとで塹壕で息絶えたとも、回復して英雄としてフランスで余生を過ごしたとも。公式記録は戦後の混乱で途絶え、墓碑は残っていない。だが、アメリカ人戦場記者アルバート・ペイソン・ターヒューンはこう記した。「一匹の毛むくじゃらの雑種犬が、任務未完のまま死を拒否し、忠誠ゆえに生き延びた。その命が、数千の命を繋いだ。」フランス軍はサタンを「decoré(勲章受章者)」として記録し、5万頭の軍用犬の象徴とした。


サタンの物語は、戦争の残酷さと人と犬の絆の極致を示す。ドゥヴァルの「友よ」という呼びかけに応え、死にゆく主人の声だけを頼りに、血と泥の地獄を這い進んだ。忠誠は銃弾を越え、愛は死を拒んだ。ヴェルダンの風は今も、その答えを待っている。

 
 
 

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