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ベンジャミンが亡くなった日。

  • 執筆者の写真: Takeshi Kimishima
    Takeshi Kimishima
  • 9月7日
  • 読了時間: 3分

最後の縞模様

1936年9月6日、タスマニアのホバート。ビューマリス動物園のコンクリートの囲いの中で、ベンジャミンは硬い尾を揺らしながらそわそわと歩き回った。背中のトラのような縞模様が、夕暮れの薄光にぼんやりと浮かぶ。ベンジャミンと呼ばれたこのフクロオオカミは、かつてタスマニアの森を駆け、夜の遠吠えで仲間と語り合った種の最後の生き残りだった。だが今、その世界は鉄格子と冷たい地面に閉じ込められている。

ベンジャミンは1933年、深い森から連れ出された。猟師の罠にかかり、怯えた瞳で人間を見つめたあの瞬間から、自由は遠い記憶となった。動物園の管理人は「ベンジャミン」と名付けたが、誰もその性別を確かめなかった。メスかもしれないこの動物は、ただ「最後のフクロオオカミ」として檻に展示された。来園者は珍しそうに覗き込み、子どもたちはその奇妙な姿—犬のようで、どこか虎のような輪郭—に笑い声を上げた。だがベンジャミンには、かつての仲間たちの気配も、夜の森のざわめきも届かなかった。

かつて、フクロオオカミはタスマニアの闇を支配していた。カンガルーやワラビーを追い、育児嚢に子を育て、星空の下で吠え合った。だが、ヨーロッパ人の到来はすべてを変えた。羊を襲う「害獣」として、1888年から懸賞金がかけられ、仲間たちは次々と銃口に倒れた。森は静まり、フクロオオカミの遠吠えは消えた。1920年代、ビューマリス動物園では一時、子を産むメスもいた。だが、ベンジャミンが檻に入った頃、仲間はもういなかった。孤独は、コンクリートの冷たさ以上にベンジャミンを苛んだ。

その夜、動物園の管理ミスが悲劇を呼んだ。ベンジャミンは簡素な寝床に戻れず、屋外の囲いに閉じ込められた。タスマニアの冬の終わり、9月の夜は冷たく、風がコンクリートを這う。ベンジャミンは体を丸め、震えながら星を見上げた。遠い森の記憶—仲間と走った茂み、母の育児嚢の温もり—が、かすかに心をよぎっただろうか。だが、夜明けが来る前に、その心臓は静かに止まった。1936年9月7日、フクロオオカミは地球から姿を消した。

ベンジャミンの死は、当初、静かに過ぎ去った。新聞は小さな記事で報じ、動物園は次の展示動物を探した。だが、時が経つにつれ、その死は重みを増した。ベンジャミンの白黒映像—デビッド・フレイが1933年に撮影した62秒の記録—は、後にカラー化され、失われた命を鮮やかに蘇らせた。背中の縞模様、ぎこちない歩み、あくびの瞬間。人々は映像を見て初めて、失ったものの大きさに気づいた。

今もタスマニアの奥地では、フクロオオカミの目撃談が囁かれる。2019年、2023年、縞模様の影を見たという声が上がる。幻か、希望か。科学者たちは首を振るが、ベンジャミンの物語は生き続ける。遺伝子編集による「復活」の試みさえ始まり、かつての過ちを償おうとする人間の努力が続く。9月7日は「国家絶滅危惧種の日」となり、ベンジャミンは人間と自然の関係を問いかける象徴となった。

ベンジャミンの最後の夜、星空の下で何を思ったのか、誰も知らない。だが、その縞模様は、タスマニアの森に、人の心に、永遠に刻まれた。


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