秋月の遺産〜夢の絆を求めて〜
- Takeshi Kimishima
- 9月26日
- 読了時間: 3分
秋の彼岸ですね。季節も移ろい始め、ようやく過ごしやすい日々が訪れました。そして、秋の夜中と美しい月光の下、ワンコたちはどんな夢を見ているのでしょうか?
秋の夜、里の外れに暮らす若い野良犬、シロは、満月の光に照らされた丘に立っていた。白い毛は月光に銀色に輝き、瞳には星屑のような希望が宿っていた。里の喧騒、人の冷たい視線、腹を満たさぬ日々に疲れ果て、シロは心の奥で囁く声を聞いた。「新しい地へ行け。そこに、きみの居場所がある。」
その夜、シロは里を後にし、月の導くまま森へと足を踏み入れた。秋の森は紅葉に彩られ、落ち葉がカサカサと歌うように響いた。風は冷たく、しかし優しくシロの背を押した。森の奥深く、月光が木々の隙間を縫って銀の道を織りなす場所に、シロはたどり着いた。そこは「月の谷」と呼ばれる、誰も知らない秘境だった。谷には清らかな川が流れ、花々が夜でもほのかに輝いていた。
最初の日々、シロは孤独だった。だが、ある晩、月が特に大きく輝く夜、遠くから一匹の影が現れた。
灰色の毛に琥珀の瞳を持つ犬、クロだった。「お前も、月の声に呼ばれたのか?」クロの声は低く、しかし温かかった。シロは頷き、二匹はすぐに意気投合した。クロは旅の途中で出会った放浪者で、かつて山の向こうの村で家族を失った過去を背負っていた。それでも、彼の心には新たな絆を求める炎が灯っていた。
やがて、月の谷には他の仲間も集まり始めた。傷ついた足を引きずる老犬ハナ、子犬の兄弟ミツとソラ、そして歌うような遠吠えで夜を彩る若い雌犬、ツキ。ツキの毛は月光のように白く、シロの心は彼女の優しい眼差しに揺れた。
夜ごと、仲間たちは月の下で語り合い、狩りを共にし、谷を自分たちの楽園に変えていった。シロとツキは寄り添い、互いの温もりを感じながら、未来を夢見た。
ある満月の夜、シロたちは谷の中心にある古いオークの木の下に集まった。そこには「月の石」と呼ばれる、青く光る石があった。
伝説では、この石に願いを込めると、楽園が永遠に守られるとされていた。シロは仲間たちと遠吠えを響かせ、月に向かって誓った。「ここは俺たちの家だ。どんな嵐が来ても、俺たちは離れない。」ツキがそっとシロの鼻に触れ、仲間たちは互いの絆を確かめ合った。谷は笑い声と遠吠えで満たされ、月はまるで祝福するように輝いた。
だが、その夜、シロの意識はふと揺らいだ。月の光が強くなり、谷の景色がぼやけ始めた。仲間たちの声が遠く、風の音だけが耳に残った。「シロ、起きな。」誰かの声が聞こえた気がした。次の瞬間、シロの目がぱちりと開いた。
そこは里の外れの丘だった。月は変わらず輝き、秋の夜風がシロの毛を揺らしていた。そばには誰もいない。クロも、ツキも、仲間たちも、月の谷も――すべては夢だったのだ。シロの胸に、切なさと希望が同時に押し寄せた。
だが、夢の中で感じた温もり、絆の力は本物だった。シロは立ち上がり、月を見上げた。「あの楽園は、俺の中に生きている。いつか、本当に見つけるんだ。」
シロは再び歩き出した。月の光が道を照らし、秋の夜長に新しい旅が始まった。その瞳には、夢の続きを信じる力が宿っていた。

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