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笑顔の猫小法師

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むかしむかし、海辺の小さな村に、いつも満面の笑みのおばあちゃんが住んでいました。おばあちゃんは一人暮らしでしたが、決して寂しそうではなく、誰かが困っていると聞いては飛んでいき、どんなに大変なことでも手を差し伸べる人でした。自分のことは二の次で、隣人の畑仕事を手伝い、病気の子供に薬草を届け、嵐で家が壊れた家族に温かいスープを運ぶ。そんなおばあちゃんのそばに、三毛猫がいました。三毛猫は柔らかな白と橙と黒の毛並みが美しく、おばあちゃんの膝の上で丸くなるのが大好きでした。

おばあちゃんは三毛猫に語りかけました。「優しさってね、笑顔から始まるのよ。誰かを助けたいと思ったら、まず笑ってあげなさい」。三毛猫はそれを胸に刻みました。村人たちがおばあちゃんを訪ねてくると、三毛猫はそっと寄り添い、みんなの話を聞きながら、優しい目を細めました。おばあちゃんの笑顔が人々を癒すように、三毛猫もいつかそんな存在になりたいと思っていました。

ある冬の朝、おばあちゃんは静かに目を閉じました。先立ってしまったのです。三毛猫は悲しみに暮れ、村を離れ、野良猫となりました。海辺の砂浜を歩き、波の音を聞きながら、生きる日々を送りました。でも、心の中にはおばあちゃんの教えが残っていました。「困っている人がいたら、助けたい」。漁師さんが網を破いて困っていると、魚をくわえて持っていこうとしましたが、猫の力では届きません。子供が転んで泣いていると、そばに寄って鳴いてみましたが、言葉が通じず、ただ見つめるだけ。どんなに頑張っても、おばあちゃんのように大きな助けはできず、三毛猫は悔しさを噛みしめました。「私は猫だから…」と、砂に爪痕を残しながら。

そんなある日、砂浜で一人の若い女性が座り込んでいました。彼女は大切な人を失くし、涙を流し、肩を震わせていました。波が寄せては返す中、彼女の悲しみは深く、立ち上がる気力さえ失せていました。三毛猫は遠くからそれを見ていました。助けたい。でも、どうすれば? おばあちゃんの言葉がよみがえりました。「笑顔から始まるのよ」。

三毛猫はゆっくりと近づきました。女性の足元に寄り、渾身の力を込めて顔を上げました。目を細め、口を大きく開き、舌を少し出して――満面の笑顔を振り絞ったのです。それはおばあちゃんの笑顔を真似た、猫らしい優しい笑みでした。女性は最初、驚いて三毛猫を見ました。でも、その笑顔に何かを感じたのでしょう。涙が止まり、彼女はそっと三毛猫を抱き上げました。「ありがとう…あなたのおかげで、少し元気が出たわ」。女性は立ち上がり、笑顔を取り戻しました。三毛猫の心に、温かなものが広がりました。「これが、私にできることなんだ」。

それから三毛猫は、砂浜を巡るようになりました。悲しむ人、疲れた人、迷子になった人に、いつも笑顔で寄り添いました。漁師さんに笑顔を、子供たちに笑顔を、旅人に笑顔を。言葉はいりません。ただ、そばにいて、笑うだけで、人々の心は軽くなりました。おばあちゃんの教えが、猫の形で生き続けたのです。

やがて、三毛猫の寿命が尽きる時が来ました。砂浜に横たわり、最後の力を振り絞って笑顔を浮かべました。すると、不思議なことが起こりました。三毛猫の体は光に包まれ、小さな猫の姿の法師――猫小法師に変わったのです。白と橙と黒の毛並みはそのままに、優しい笑顔が永遠に輝く存在となりました。

今も、海辺の村では、猫小法師の物語が語り継がれています。困った人がいると、どこからか現れ、笑顔で寄り添うのだとか。その笑顔は、みんなの力となり、優しさを広げ続けています。おばあちゃんの教えは、こうして永遠に生きるのです。

 
 
 

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